ヘッドハンティング会社代表取締役社長 渡辺健堂氏が語る「企業が求める人材と英語力

現在急成長中のヘッドハンティング会社、株式会社サイトフライトの代表取締役で、自身も経営だけでなく現場でもヘッドハンターとして活躍中の渡辺健堂氏。
様々な企業が必要とする人材を的確に提供するだけでなく、人材ニーズをプロデュースし、クライアントの更なる組織力強化に貢献してきた渡辺氏に、ヘッドハンティングという仕事内容から、現在企業が求める人材と英語力の関係についてインタビューを行った。
派遣で働く方やこれから就職する方、転職をして更なるキャリアの構築を考えている方は是非お読みいただきたい。

渡辺健堂(わたなべけんどう)氏

北海道大学法学部卒業。日本長期信用銀行にて大企業に向けた融資を担当した後、ベンチャー企業を経て人材派遣会社株式会社インテリジェンスに入社。2000年にヘッドハンティング会社株式会社サイトフライトを設立する。
2002年からは同社の代表取締役社長に就任。バイアウト・ファンド(機関投資家や個人から集めた資金で株式会社の株などに投資をし、経営にも関与することで企業価値を高め、高い投資リターンを追求するファンド)への経営者供給や、大企業のアジア進出支援など、従来のヘッドハンティングの枠を超えたソリューションを得意とする。
聞き手:(株)キュリオコーポレーション代表取締役兼キュリオイングリッシュのマネージャー、西本直靖

Q:一般の方には普段馴染みがないと思いますが、まずはヘッドハンティングについて簡単に教えて下さい

-ヘッドハンティングというのは言葉からすると”頭狩り”で、ちょっと怖いイメージがあると思うのですが(笑)、基本的には企業が必要とするヘッド、ビジネスのリーダーをですね、待っているのではなくて、こちらからとりに行く、という動きをする時に、「とりに行く」アクションを行うエージェント(代理人)というのが僕らの仕事ですね。
具体的には、最近のことで言いますと、ドコモにいた津田さんというNTTの技術畑にいらっしゃった方を、トップという地位でヘッドハンティングをして、ボーダフォンに移っていただいたり、あるいは通信業界が多いのですが、ダイエーの樋口さんは以前、日本ヒューレットパッカードにいらっしゃった方であるとかといった事例があり、ここ数年日本でも一気にヘッドハンティングで移っていくということが浸透してきました。
今言った様なことは新聞に載るくらいの大きな出来事ですけれど、僕らがやっているのは必ずしもそういったトップクラスのことだけではなく、30代40代のいわゆる脂が乗り切ったようなビジネスマンで、他の会社でどうしても必要とされる能力を持った人にこちらから声をかけていき、転職していただくというのが、我々の言っているヘッドハンティングですね。

Q:その求められる人材というのは、クライアントからはかなり細かく指定されるのですか?

-そうですね。当然細かく指定されます。スキル面と人物面のそれぞれで求められることが多いですね。具体的に言いますと、スキル面では、すごく特殊な体験とか特許を持っている人でないとダメだというようなパターンから、あるいは数百人単位の営業部隊のヘッドを務めた経験がある人だとか。
求められるのはそのような世の中にあまりないスキル、経験を持つ人物です。次に人物面ですが、それはどこの会社でも同じことなのですが、イヤな感じの人は採用したくないですよね。チームワークで物事を進められるとか、チャレンジングな人であるとか、リーダーシップがとれる人であるとか、そういう人が求められますね。

Q:人材のリサーチの仕方について教えていただけないでしょうか?

-ある能力を持っている人、あるスキルを持っていそうな分野というのは、僕らの経験上大体分かります。だからまずそのようなところから当たっていきますね。情報には二つ種類があって、オープンになっている情報と、クローズされている情報に分けられる。
まず、オープンされている情報の方から探しますと、やはり仕事ができる人はどこかに名前が載っていたりします。例えばセミナーで話しをしていたりですとか、webの中で特集されていたりですとか、社内報に出ていたりなど様々。
そういうオープンになっているところからまず僕らが探します。もう一つはクローズされているところから探すのですが、その業界に詳しい人がいるわけですよ。そういう人たちと僕らが仲良くなって情報交換をします。例えば化粧品会社に勤めていて詳しい人とか。

Q:人材力を見るとき、どういったところに注意をしますか?

-まず、コミュニケーション能力ですね。第一印象にその人の人柄がにじみ出てきますから。僕らがヘッドハンティングをしない人たちは、例えば人と話しているときに目を見てくれないとか、挙動が不審であるとか(笑)。その人がどういう人なのかというのは、その人を見れば3分で分かります。次に話しをしてみて、その人が考えている地点がどこまで深いのかということを確認します。仕事において何を重視するのか、人生の中で何に重きを置くのか。そういうのは、世の中をどうみているのか、自分をどう位置づけているのかということを知るベースになってきます。例えば、実務家として仕事ができても、見る視点が単に仕事をこなすだけというものだと、僕らが要求されるような「組織のトップ」であるとか「経営幹部」のようなところには向かないのかなと思います。
これは年齢は関係がなく、20代の人であっても、すごく高い地点で自分の仕事や業務を見ている人もいれば、かたや50代であっても、大企業の一部という意識でしか働いてこなくて、人間に深みがないという人もいて。そこは先程言った様に、最初のコミュニケーション能力で分かります。その中で、外資系で働く方が向いている人と、日本の企業で働く方がいい人というのは明確に表れてくる。どちらが良い悪いではないのですが、それぞれのメリット・デメリットはありますからね。例えば「自分を客観視できない人」とか「周りの人に気を使いすぎちゃう人」あるいは「達成思考が弱い人(自分が達成することよりも、仲間との協調を重視しすぎるタイプ)」というのは外資系企業に向かないですね。これは英語ができるできないとかいったスキル以前のスタイル・価値観としてなのですが。

Q:外資系企業・日本企業それぞれどういった人が向いているのでしょう?

-外資系企業は、「自分はここまでできて、これ以上は権限がない。自分のミッションはこれで、評価はこういう形で何年に1度このように反映される」ということが明確に分かるのが特徴ですね。だからこのようなやり方に気持ちよさを感じる人は、外資系企業に向いている。逆に日本の企業だと、「自分のミッションは、この会社を大きくすること」という、いきなり大きな話になり、権限の幅もすごく柔軟ですね。
「ここまで」って決まっていなくて、「それは、ケースバイケースだよ。それよりは、物事が総体でうまくいくにはどうしたらいいのかってことを考えてもらわなければ困る」と言われたときに、「これじゃ、自分の権限がどこまであって、どこからができないか、全く分からない」と思う人には、日本の企業は向いていないですね。

Q:一般的に外資系企業が求める人材のスキルはどういったものでしょうか?

-それはなんといっても英語力です。求められる英語力のレベルが違いますよ。僕らが対象にするような外資系企業だと、バイリンガルじゃなきゃダメというところもありますね。英語を母国語として、さらに日本語を堪能に使えるというような人を求める企業もあれば、いやいやとりあえず英語で書いてある社内文書や、メールが読み書きできればいいという企業もある。
例えばTOEICの点数で言いますと、今言った下のレベルの企業だと700点からでOKですし、上のレベルの企業であれば、900点とっていても「ふーん」という感じなんですよね。そういう企業ですと、もうTOEICで量れるわけではなくて、もっと別のところ‐経験ですとか‐で量ろうとしますよね。外資系企業だと、企業によって求めるレベルは様々です。日本企業になりますと、そんな高い英語能力を求めるところは稀でして、850点あれば「すごい!」と思われますね。

Q:業種・職種によっても求める英語能力は様々であるということですね?

-そうですね。また企業は、TOEICの点数だけではなく、英語をビジネスの現場で使ったことがあるという経験を非常に重要視します。いくら日常会話でブロークンな形での英語のコミュニケーションができたとしても、実際のビジネスの現場でどの程度ネゴシエーション(交渉)ができるか、またはディスカッションができるか。これは結構企業が重要視するポイントですね。また、ドキュメンテーション(文章にする)というポイントも非常に重要です。というのは、「話すこと」と「読むこと」というのは日本人にとって結構簡単なことで、むしろ「自ら文章にする」能力が求められる。
日本のビジネスシーンでも、ビジネス書式がありますよね。日本語でもビジネス文書が書ける人と書けない人がいるというのに、これが外資系企業では英語のビジネス文書になってくる。これがブロークンな形だとE-mailというものがありますよね。メールだと、多少文章が崩れていても大した問題ではないのですよ。でもこれが例えば対外向けの文書のチェックであるというレベルまで求めてくるというのであると、これまた相当上のレベルの英語が必要になってくる。そういう意味で、ビジネスでの経験が問われてくる。また最近ではテレフォンカンファレンス(電話会議)も外資系企業では盛んに行われるようになってきている。
その時求められるのは、英語力もさることながら、先程言ったように、人物像になってしまいますけどね。一方で最近では外資系企業だけではなく、日本の企業も英語力を求め始めています。その理由としては、外資系のファンドがいつの間にか自分の会社の株を買い始めているから。何が起こっているのかというと、経済社会がボーダレスになってきているのですね。今までのボーダレスっていうのは、日本企業が中国に出て行く、アメリカに出て行くということだったのですけれど、そもそも企業の持ち主が代わるということが起きてきている。例えばよく挙げられるのは自動車業界ですね。
今やトヨタ、ホンダ以外は全部外資系企業の傘下になっていることから考えると、日本の大企業において、いつ持ち主が代わり、社内のオペレーションや日常のアクティビティー、ルールが変わるのか分からなくなってきている。今までの日本の企業の考え方は、日本を中心として、一部外国へ出て行くという話だったのですが、今後ガラッと会社そのものが変わってしまうということを考えると、いつ、そのようなことが起きてもいいよう、リスクに備えるための英語力というのは持っていた方が良いし、逆にヘッドハンターに求めるニーズとしても「やっぱり英語は話せないとね」ということになってくる。

Q:つまり、外資系企業が求める英語力はこれまでと同じ高レベルのものであるが、日本企業が求める英語力はこれまでと変ってきているというわけですね?

-そのとおりですね。日本企業においても、英語力が重要視されてきている。

Q:今後、ヘッドハンティング市場というのはどんどん増えてくると思うのですが、それは経営者(幹部クラス)としてのヘッドハンティングだけではなくて、それ以外の人材にも波及してくるのですか?

-まさにおっしゃるとおりでして、僕らのヘッドハンティング業界も、そこにすごく注目しています。そもそも10年前の1995年からの話で言いますと、ヘッドハンティングを使うのは99%が外資系企業でしかなかった。例えばマイクロソフトが日本支社の支社長を選ぶときには、日本のNECで海外の経験が長くてアイディアマンであり実力のある人をとってくるという話になっていたわけです。しかし今起こっていることは、日本企業そのものをヘッドハンティングしようとしていること。それも、トップクラスだけではなくて、年齢は関係なくデキル人が欲しいという傾向になってきているわけですよ。今は20代後半あたりからどんどんヘッドハンティングされて、年収もステップアップしている例も増えてきているわけですし。増して今インターネットビジネス市場と言うのは急拡大しているわけですよね。これは「広告」とかだけじゃなくて、「イーコマース」というのもそうですし、リアルビジネスにどんどんインターネットが入ってきている。
では、その「インターネットビジネス」が分かっているのは何歳くらいなのかといったら、やはり20代から30代が中心になっているわけですよ。そういう意味で言いますと、本当にデキル若い人材はどんどんヘッドハンティングされてきています。例えばインターネットのセキュリティー分野での話ですけれど、ハッカーをヘッドハンティングしたいという例もありました。しかしハッカーなんて、今までは人づてでしかどこにいるのかなんて分からなかった。
だから人が欲しいという時には、今までは人づて、主に同業界内ででしか探せなかったのですが、予想もしなかったところに適材がいるということを皆分かり始めてきて、それを発掘してくるのがヘッドハンター、あるいはヘッドハンティングというソリューションであると思うし、僕らに対するオーダーも多様になってきていて、マーケットはどんどん広がる一方です。

Q:将来、転職とかだけではなく、自分がヘッドハンティングされるという可能性があるという状況にも備えて、ステップアップ・キャリアアップをするためにいろいろと準備をしなければならないと思うのですが、その時必要なことはどんなことですか?

-今までは、海外といったらアメリカ・ヨーロッパが中心だった。でも第三世界がどんどんマーケットをオープンしていった結果、日本だけではなく、例えば中国のマーケットから、或いはインドのマーケットからヘッドハンティングの依頼を受けることも増えてきています。そういったことにより、オポチュニティー(機会)が広がり、ビジネスマンの持てるオプションがどんどん多くなってきている。だから、どこからオーダーがくるか分からないのですよ。中国かもしれないし、インドかもしれないし、日本の外資系だったりする。そこで、日本語しかできないっていうことになると、いっきにその選択肢は狭まってしまう。「あ、私はここまでしか対応できないのだ・・・」というね。でも英語ができると、どこからくるオーダーに対してでも自分はフリーハンドでそれを掴み取るチャンスがある。
ヘッドハンティングされる瞬間に、ヘッドハンターは「英語葉話せますか?」って聞くわけですよ。そこで、「全然話せません」ということだと、ハンターがその時持ってきた情報の半分以上が「この人に言っても仕方がない」と判断されて切り捨てられるわけです。しかしここで、「英語はできますよ」という回答であったならば、その瞬間話がいっきに広がって、ハンターから「こんな話もあります、あんな話もあります」ということになるのです。ヘッドハンターと会ったその瞬間の、英語ができるかできないかというそのジャッジメントだけで、あなたが受け取れる情報の量・質ともに大きく変わってくる。つまり、まとめると、ヘッドハンティングという市場がどんどん広がっていく中で、これからヘッドハンターと会う機会も増えてくる。その時、英語ができる・できないという判断だけで、そのヘッドハンターがあなたに与える情報の内容が変わってくるというわけです。 

Q:今はまだヘッドハンティングの対象にはなっていない、卵である人たちは、今後どのようなスタンスで仕事に取り組めばいいのでしょうか?

-そうですね。人生において充実したビジネスライフを送ろうとすると、必然的に英語が必要になってくるし、自然に英語を学んでいくべきだと思います。その中で、自分が必要だと思ったならば、自分が最適だと思った英会話スクールに通えばいいだろうし、最低限身につけなければいけないものは、即効身につけておくべきですよ。そこは、最低条件なわけです。その前提条件の中に、最低限の英語力というものが入ってくる。その最低限の英語能力を身につけた後に、先程申し上げましたように、それを強化するような経験を積むというようなプロセスが待っているのだろうなと思います。
つまり英語力やファイナンスの知識や、最初に言ったコミュニケーション能力なんかはなるべく早い段階で身につけてしまうこと。ビジネスマンとしての旬な時期に、そのようなベーシックなことに時間を割くということだけはやめたほうがいい。ビジネスマンとしての旬な時期に得るべきことは、経験や、その人の考え方の基盤やあるいはスケールの大きさであり、そういったものに自分のエネルギーを費やし、自分の目の前の結果を出すことに全力投球するべきです。問題はその結果を出すべきときに「あれ、私英語できない」ということで、いっきに自分のパフォーマンスが下がってくることは残念です。だから、早めに、とにかく早めにベーシックな部分は固めるべきですね。その後にヘッドハンターに会って、そこから経験や知識を身につけ、いろいろなチャンスを得てステップアップしていけばいい。

Q:ところで、女性に対するヘッドハンティングは増えていますか?

-昔と比べると、ものすごく増えていますよ。特に「女性のほうが優秀なのではないか」と思うクライアントは結構います。優秀な人材が欲しいと思ったときに、その人物は女性の中にいるかもしれないと思う企業が増えてきているのですね。もしかしたら主婦の中にいるのかもしれない、もしかしたらOLの中にいるもかもしれない。そういう人たちが実際に登用されて、ビジネスシーンに出ていくという例が増えてきています。
日本企業無最近かなり変化してきましたが、やはり外資系は、女性も男性も正当に評価するシステムが出来てるので、特に外資系はヘッドハンティングの対象としては女性も男性も関係ありませんね。

Q:最後になりましたが、コスト以外の観点からですが、なぜヘッドハンティング又は派遣が増えてきているのか? 昔のように 自社で育てることはしないのでしょうか?

-まず初めにに、外資系企業が優秀な人材を欲しがり、優秀な人材が自分の能力に見合った報酬をくれる企業で働きたいというニーズがマッチしました。その後、日本企業が自分の会社には優秀な人材がいなくなってしまったということに気がつき、それなら自分たちも外に人材をとりに行くしかないという状況になってきた。日本の企業も、外資系企業で経験を積んだ人材がほしい。これが現在の動きです。こうなってくると今度は、日本のマーケット全体が人材争奪合戦に名乗りを挙げるという状況になるので、ヘッドハンティングの需要が増えてきている。もう一つは、派遣ということも含めて考えると、ワークスタイルが多様化してきたことが挙げられます。
今までのワークスタイルは、男が新卒で会社に入り定年になるまで働くという、戦後にできた年功序列にのっとっていた。ところがいまやその神話も崩れ、結婚する年齢が遅くなり、子供も生まない人も増え、女性も結婚したからといって仕事をやめるわけではなくなっている。自分が何をしたいか、どう生きたいかということを含め、自分のワークスタイルをチョイスできるようになっている。そうなると、企業側も個人の側の意識の変化に応じて、人材の調達・能力の調達方法を考え直さなければならなくなっている。正社員だけじゃなくて派遣社員も活用しなければならない。つまり、企業の側と個人の側、両方の側面から起こった変化が、我々のようなヘッドハンティングや派遣とか、いわゆる人材ビジネスのニーズを高めた要因であると思います。
―――― ありがとうございました。